Present For...
 


「みどり、あお、……きいろ?」
 言いながら、ラルム・オーは首を傾げた。
 どんな色が似合うのか、と言われても、そんなことは考えたことがなかったから、分からない。
 ただ、その人を思い出したときに浮かぶ色を羅列する。
「男性なら、あまり明るすぎない方が良いかな」
 アルジャンは娘の言った色に当てはまるような彩紐をより分けて、示した。
 それを眺めるラルム・オーの髪には、新しい髪飾りが付けられている。丸い花弁の造花に、小さな硝子の粒が朝露のように煌めく。糸で繋いだビーズの先、雫が揺れた。
 神殿の定めた聖人の日、日頃親しい友人や恋人同士で贈り物をしあう風習がある。
 毎年、クローデル家でも近所や仕事で付き合いのある店や工房同士で些細な贈り物交換をしていたが、ラルム・オーがもらったそれは、ギルドで知り合ったエルフの青年から個人的に贈られた物だった。
 今日は、その御礼の品を選んでいるのである。
 普段は、ジャムや蜂蜜 ―― アルジャンの妹アネットは隣町の喫茶店に勤めており、其処で扱っている蜂蜜を市場よりも安価で分けてくれるのだ ―― を返礼に贈っているのだが、それはやりとりされる贈り物の中身が大抵食べ物だからである。
 髪飾り ――― と一輪の花の返礼としては物足りないだろうと、蜂蜜に綾紐を添えて贈ることにしたのだ。
「みんな、きれい」
 台に広げられているのは、どれもアルジャンが編んだ紐である。彼女にはどうしてこんな綺麗なものが作れるのか、想像もつかない。
「オーが欲しいものがあれば言いなさい、あげるよ」
 育て親のやさしい言葉に頷いたが、実際に貰う気はない。見ているだけで満足だった。ラルム・オーはよく人に物をもらうが、彼女自身に物欲はほとんどないと言って良い。
 色とりどりの紐をラルム・オーは楽しげに眺めたり手に取ったりしていたが、しばらくして一本の綾紐を選び出した。
「これが良いわ、にいさま」
「うん?」
 ラルム・オーが選んだのは、碧を基調に橙の糸を細く編みこんだ紐だった。
「あの羽と、同じ色ね」
 アルジャンが工房として使っている部屋の壁には、大小さまざまな鳥の羽が額に入れられて飾られている。その中には、以前、ラルム・オーが持って帰ってきたハルピュイアの羽も含まれている。
 自然が生み出したそれらの美しい綾をもとに、彼は紐を編むのである。
 ラルム・オーが指差した先には、三枚の小さな羽が飾られていた。
「あれは、カワセミという鳥の羽だよ」
「かわ?……川にいる鳥なの」
「そう。オーは見たことないかな。とてもきれいな鳥で、空飛ぶ宝石と呼ぶこともあるそうだよ」
 ふぅんと呟いて、ラルム・オーは綾紐と羽とをまじまじと見比べた。
 どちらも、これから贈ろうと思っている青年によく似合うような気がした。
 その髪や目の色、服の色合いよりも、ラルム・オーには彼の周りに集まる精霊たちがまとう光の方が印象的に思い出される。
 傍らを流れる小川のせせらぎが耳に心地よい木陰の下、竪琴の音色に惹かれて楽しげに舞う風の乙女。葉の茂る梢の合間から差し込む柔らかな陽光、花開く光の蕾。
 あのひとときが蘇るようである。
「きれい。これにするわ」
「そう。じゃあ、なにか包むものがあったほうが良いね」
 アルジャンは、箱か袋か、何か手ごろなものはないかと辺りを見回したが、工房には役に立つものはなさそうだった。
「ペシュに聞いてみる」
 ラルム・オーは立ち上がって、紐を手にペシュのいる母屋へと向かった。

 

fin.

 リエシィ@蓮花さんに素敵なバレンタインプレゼントを頂いたので、お礼小話です!
 全然、御礼になってませんが、綾紐を、差し上げたいと…!折角の綾紐職人設定なので、活用(笑)
 絵も半ば落書きながら描いてみました…。
2008.03.04